2025.12.25
オール信金で取り組む事業承継支援
~営業店も巻き込んで事業者に伴走~
事例紹介動画
事業所の減少は地域の衰退を招く
危機感から事業承継支援に着手
三方を海に囲まれ、国内屈指の水揚量を誇る漁港を有する千葉県銚子市は、漁業や水産加工が産業の中心となっている。そんな銚子市も他の地方都市と同様、近年は少子高齢化・人口減少が進み、事業所の数も減少の一途をたどっている。特に後継者不在による廃業や閉店は街の衰退にもつながることから、大きな問題となっている。銚子市に本店を置く銚子信用金庫は、地域経済を支える金融機関としてそうした状況を憂慮し、6年ほど前から取引先企業の事業承継支援に取り組み始めた。
「事業所を減らさないというのは地域の活性化の面でも重要ですし、エリアが限られた信用金庫にとっては地域の衰退は私たち自身の衰退につながりますから、事業承継は一番に取り組むべき課題と捉えています」と語るのは、銚子信用金庫地域サポート部の伊藤剛康部長だ。事業承継支援は、地域サポート部が担う取引先の経営支援強化の一環としての取り組みだが、専門的なスキルを持つ職員は少なく、当初は手探り状態で成果もなかなかあがらなかったという。
「取引先の事業承継の課題を把握するためには、本部だけではなく営業店の力も必要です。しかし事業承継はセンシティブな面もあるため、営業店の特に若い担当者は取引先で事業承継の話をするのに抵抗があったようです。その意味でも、事業承継を支援する上でどのようなスキームや体制を構築するかが課題でした」(伊藤さん)
-
伊藤 剛康 さん
銚子信用金庫 地域サポート部 部長
中小機構の支援
営業店の担当者が案件を持ち寄る検討会
アンケートの意味や重要性を理解する
事業承継支援の重要性はわかっていても、どんなスキームでどんな体制を整えればいいのか――。模索する伊藤さんにとって一歩踏み出すきっかけとなったのが、中小機構が派遣するアドバイザーの一言だった。「体制づくりにどう取り組むか、年間スケジュールをどうするか、一緒に考えましょう」。中小機構関東本部に所属する中小企業アドバイザーの松林伯尚さんの指導の下、銚子信用金庫の事業承継支援は確実に動き出した。
まず取り組んだのが、アンケートによる掘り起こし。アンケート自体はそれまでも実施していたのだが、次のステップになかなかつながらなかった。アンケートをとっても、それが自分の評価や営業店の業績にどうつながるかがイメージできていないのが理由のひとつだった。そうしたこともあって導入されたのが、成果だけでなくプロセスも考慮する評価制度である。例えば事業承継支援なら、アンケートや専門家へのつなぎ、事業承継計画の策定というように段階ごとに評価項目とするというもの。これが職員の積極的な活動を後押ししている。
次に実施したのが営業店職員向け案件検討会だ。営業店の担当者がヒアリングした事業承継案件を持ち寄って、その後の進め方などについて事業承継・引継ぎ支援センターの専門家や中小機構のアドバイザーから助言をもらう場である。案件検討会では、自身が担当する案件について進捗状況を共有するとともに、次への進め方などのアドバイスを受ける。この案件検討会は経験が少ない若い担当者にとって学びの場にもなり、あらためて入り口となる掘り起こしやヒアリングの意味や重要性を理解するという。
成果と課題
資金ニーズの掘り起こしへの意識高まる
M&Aによる事業承継支援も視野に
取り組み当初は手探りだった銚子信用金庫の事業承継支援も、松林アドバイザーの指導が入ったころから着実に成果を出し始めている。「事業承継計画書の策定では、当初は年に1件程度でしたが、その後3件、5件と増えて、最近では年間10件程度と少しずつ向上しています」(伊藤さん)。銚子信用金庫では今、専門家に依存しない自走型の事業承継計画策定に力を入れているが、2025年度はすでに7件が自走で策定している。
事業承継支援を推進する地域サポート部が、そうした目に見える成果以上に手ごたえを感じているのが、職員の成長だ。「事業承継に寄り添うことで、例えば後継者が引き継いだ後の事業内容の変化とか設備の更新とか将来の展望が見えてきます。そこに実は潜在的な資金ニーズがあるわけで、こういう目線で見れば事業承継は短期的な話ではなく、中長期的なニーズの深掘りには重要な取り組みだという声が聞こえるようになりました」と語るのは地域サポート部地域振興課の鏑木達也課長。最初はアンケートが目的になっていたところはあったが、最近は課題に対しての深掘りというように明らかに姿勢が変わってきた、鏑木さんはそう感じている。
「職員への研修やアンケートの実施、案件検討会の開催などが、単独のイベントではなく一連の流れとして仕組みが作れたのは中小機構の支援があったからこそですね。銚子信用金庫の事業承継支援体制がいかなるものかが見えるようになった、これが一番の成果と思っています」(伊藤さん)。
今後取り組むべきテーマや課題も見えてきた。そのひとつが、後継者が社内や親族内に見つからない場合の対応だ。「M&Aとなると、当金庫の取引先同士をつなぐのが一番の理想なのですが、事後の部分も含めて我々だけでは経験もノウハウも足りない。現状では外部の力に頼らざるを得ません」(伊藤さん)。取引先同士のマッチングに欠かせないのは情報共有だが、センシティブな情報を扱うことになるためデータベースの構築は慎重に進める必要がある。これも課題のひとつとなっている。
アドバイザーの視点
「支援機関の事業承継支援においては、掘り起こしが最も重要」という松林アドバイザーは、「まずは営業店の担当者1人1件、社長から事業承継で一番の課題、一番の悩みを聞き出しましょう」とアドバイスする。それに加えて活用しているのがオリジナルの「振り返りシート」。ここには企業概要のほか借入金の有無や後継者がどのような状況かなど、事業承継にかかるすべての情報が網羅されている。このシートを用意して案件検討会に臨むことで、本部やアドバイザーはより具体的な助言ができる。「大事なのは本部と営業店の連携。案件検討会から次のステップに進む上で本部のフォローアップは不可欠です」(松林アドバイザー)。
-
松林 伯尚 さん
中小機構 関東本部 中小企業アドバイザー
ポイント
案件検討会
銚子信用金庫が実施している案件検討会が特徴的なのは、本部の職員だけでなく営業店の担当者も参加することだ。自身が担当する案件を持ち寄って情報共有するとともに、不安なところや今後の対応について具体的なアドバイスがもらえる貴重な機会となっている。当初は営業店のエリアごとに集まっていたが、ベテランと若手が同席すると相談レベルが合わず、若手にはハードルが高かった。そこで始めて2年目からは年次ごとにしたところ、若手も発言しやすくなったという。「特に若い職員は同じようなことで悩んでいるんです。“じゃあこういうときってどうしてた?”とお互い話せるようになったのは、案件検討会の効果のひとつです」(鏑木さん)。
-
鏑木 達也 さん
銚子信用金庫 地域振興課 課長
銚子信用金庫
- 創業:1910(明治43)年
- 所在地:千葉県銚子市双葉町5番地の5
- 店舗数:28店舗
- 役職員数:391名
- 預金:5175億円
- https://www.choshi-shinkin.co.jp/

