2026.2.26
商工会議所が他の機関と連携して情報共有
~生き残り戦略として事業承継支援に取り組む~
事例紹介動画
地域の事業者の減少を危惧
商工会議所内に支援チームを立ち上げ
岩手県最南部、盛岡と仙台のほぼ中間に位置する一関市の人口は約10万5000、県内では盛岡、奥州に次ぐ規模だ。他の地方都市と同じく、少子高齢化や事業所の減少という問題を抱えている。特に事業所数は2009 年の約6100 から2022 年には約4900 まで減らしている。地域の商工会議所にとっても事業所の減少は会員減少につながることから、事業所数の維持は大きな課題である。そうした状況の中で一関商工会議所は2017 年、同様に事業所数の減少が収益にも大きく影響する、地元の一関信用金庫と連携協定を締結し「中小企業支援室」を設置、事業承継をメインに中小企業経営者の相談を受けてきた。2021 年には岩手県信用保証協会、日本政策金融公庫(日本公庫)、岩手銀行、北日本銀行、東北銀行も参画した。
「以前、会員・非会員問わずにアンケートを実施すると、8 割が直近10 年間で承継に関する取り組みを行っていないことが判明、これは商工会議所の運営にも支障が出かねないと危惧しました」と振り返るのは、一関商工会議所経営支援課の金野剛士課長。中小企業支援室といっても物理的な部屋があるわけではなく、商工会議所の職員のほか信金や保証協会、時には中小機構の専門家などメンバーが月に1 度程度ミーティングを行い、承継問題を抱える事業者の情報共有を図っていた。しかし、マンパワーが不足がちで知識や経験が豊富ではなかったため、案件の滞留も発生していたという。そこで一関商工会議所は、経営指導員が主体的かつ自立的に支援できる組織的な事業承継支援体制の構築が必要と考え、中小機構へサポートを要請した。
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金野 剛士 課長
一関商工会議所 経営支援課
中小機構の支援
身に付けるべきは社長との対話力
何が課題かを引き出すことが重要
「以前から金野課長とは面識があったこともあり相談があったのですが、私が税理士としてお手伝いするより中小機構としてサポートしたほうがいいのでは、と伝えました」と、中小機構東北本部のアドバイザーとして現在も一関商工会議所を支援する乾比呂人アドバイザーは振り返る。「ちょうどそのころ青森の黒石商工会議所が取り組んでいた、中小機構の支援機関支援の枠組みを使った支援力向上プロジェクトを見学する機会があり、これは非常にいい取り組みだと思いました」(金野課長)。これがきっかけとなってスタートしたのが、中小機構との協働による具体的な承継事案を活用した実践型支援研修である。研修は、座学の講習の後、商工会議所の経営指導員を数人ずつのチームに分け、中小機構の専門家とともに依頼のあった会員事業者の事業承継支援を行う。
「この研修で経営指導員にまず身に付けてもらいたかったのは、社長との対話力です。社長自身が気づいていない課題もあり、それを掘り起こすことができれば、あとは専門家につなげることもできます。これを“前さばき”と言いますが、座学ではなかなか習得できません」(乾アドバイザー)。実際に2年前からこのプログラムに参加している一関商工会議所室根支所の小野寺直人主事は「1年目は右も左もよくわからず、アドバイザーに頼りきりでした。ヒアリングも試行錯誤でしたが、チームで取り組めたので不安はなかったですね」と話す。
実践型の研修をサポートする上で、乾アドバイザーが特に気を配ったところがあるという。「このプログラムはいわゆるOJTなのですが、こちらとしてはあまり意識しないようにしていました。つまり支援先の経営者や後継者が“ウチを研修の教材にしている”と感じてしまうと、聞ける話も聞けなくなってしまいます。社長の人生ですからね、大事にしないと」。
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小野寺 直人 主事
一関商工会議所 室根支所
成果と課題
ダメ出しを経てブラッシュアップ
相談への対応力も確実に向上
この研修では、講習や支援の実践に加え、中間と最終で発表の機会を設けている。「中間発表では支援室のメンバーらが結構ダメ出しします。それを経てブラッシュアップした上で最終発表するのですが、職員のまとめる力の向上に驚きました」と金野課長。実際に事業承継計画書の作成にも取り組んだ小野寺主事は「計画書策定では会社の強みだけじゃなく弱みや課題も聞き出す必要がありますが、デリケートな話なので聞きにくい場面もありました。そんな時もアドバイザーは自然な流れで引き出せる、そこは非常に勉強になりました」と話す。
「もちろん、この研修の狙いは計画書が策定できるようになることにはとどまらない。その点についても「相談者への対応能力は確実に上がっていると思います。計画書もただ記入欄を埋めるだけではなく、いろいろ聞き出していって、これまでと現在とこれからというのを整理できるようになっているのは成長ですね」と金野課長。
事業承継支援を商工会議所単独ではなく、支援室として保証協会や金融機関も参画していることも、この取り組みの特徴のひとつだ。「地域の信金や信用組合、さらには保証協会や日本公庫、地銀などとも手を組むことで情報の網羅性も高まり、面的な支援がしやすくなります」と金野課長が言うように、連携することによる支援効果も期待できる。支援室に参画する日本公庫一関支店の久下谷篤吉融資課長は「承継にあたり事業の改善は必要ですし、資金繰りも不可欠です。私たちは全国組織ですので、地域の金融機関に加えて資金調達の選択肢が広がります。これは事業者側のメリットにもなるでしょう」と、参画の意義を説明する。
関わるメンバーそれぞれの意識も変わってきている。「私の担当地域でも老舗のお菓子屋さんが廃業してしまいました。1社でも多く事業者に、長く続くきっかけをつくれる職員になれたらと思っています」(小野寺主事)。
アドバイザーの視点
「自身の生き残りを事業承継支援に見出し、代替わりまで継続して支援を行うという姿勢に期待が持てます。他機関と連携する支援室もいい枠組みです」と、乾アドバイザーは一関商工会議所の取り組みを評価する。
今回の中小機構の事業承継支援がスタートする以前は、会員企業から事業承継に関する相談があると事業承継・引継ぎ支援センターなどにつなぐだけだった。乾アドバイザーは、それゆえの組織としての足腰の弱さを感じていた。それでも支援スタートから2年を経て、成長も見て取れるという。研修でとあるチームリーダーが口にした「計画書をつくったら終わりと思っていたが、これが始まりということに気付いた。ここからが本番なのであり、気を引き締めないと」という言葉を聞いた乾アドバイザーは「本当の意味で代替わりまでを考えるようになったんだなと、非常に感銘を受けました」。
乾アドバイザーが強調するのは「私たちが取り組んでいるのは専門家派遣ではなく、支援機関支援であるということ。支援機関がそれをやるための力を得ることが目的」という。「なので、支援機関のプランがないと動けない。そのプランが大きければ大きいほど私たちの支援も大きくなります」(乾アドバイザー)。
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乾 比呂人 中小企業アドバイザー
中小機構 東北本部
事例紹介
お互いになんとなく思っていた承継を後押し
ヘアーサロンヌマクラの沼倉洋子さんは創業100年を迎えた2024年、長女である小野寺由美さんに店の経営を引き継いだ。「長女が同じ仕事をしているのでいずれは継いでくれるのか、ちゃんと考えないととは思っていました」(洋子さん)。一方の由美さんは「小さいころから漠然といずれは家業を、という感じですね」。
そんな折、商工会議所に相談する機会があり、具体的に動き始めた。「専門家にやるべきことをきちんと示してもらい、不安も解消しました」と洋子さん。由美さんは、自身の仕事のしやすさも考えて店を改装。資金は日本公庫から融資を受けた。「母娘ながら、こういう機会を通じて実際の言葉で聞いたりするとホッとします。融資の面でも相談できたので、精神的にとても楽でした」(由美さん)。
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沼倉 洋子 さん
ヘアーサロンヌマクラ 前代表
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小野寺 由美 さん
KompactHair 代表
一関商工会議所
- 設立:1947(昭和22)年
- 所在地:岩手県一関市駅前1番地
- 拠点数:本所のほか7支所
- 役職員数:37名
- 会員数:2126社
- https://ichinoseki-cci.com/

