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事例20|東春信用金庫

2026.2.26

実践型研修で課題解決支援人材を育成
~支店長が率先して行動変容へとつなげる~

事例紹介動画

経営者自身も事業承継問題の意識が希薄化
まずは支店長から事業承継の知識習得へ

 愛知県小牧市。1950 年代に東春日井郡の3町村の合併で誕生した。この地に本店を置く東春信用金庫の名称は、そんな歴史に由来している。小牧市、春日井市を中心として県内に19 店舗を構える、尾張地区のコミュニティーバンクのひとつである。そんな東春信用金庫にとっても、取引先企業の事業承継支援は大きな課題となっていた。数年前から事業承継・引継ぎ支援センターと共同での相談会や、取引先企業への事業承継アンケートなどを実施している。しかし、経営引き継ぎの問題はセンシティブな部分もあり、職員もなかなか積極的に関われずにいたという。

 とはいえ、信用金庫にとって地域企業の廃業は、事業基盤の劣化につながりかねない。そこで東春信用金庫が取り組んだのが、事業承継を含めた取引先事業者の課題解決を支援できる人材の育成だ。「事業承継については、それほど喫緊の問題と捉えていない経営者も少なくありません。課題であることを意識してもらうためには、私たち側で事業承継スキルの向上を図る研修が必要と考えました」と語るのは当金庫執行役員で業務サポート部の各務茂幸部長。「支店の中で知識レベルが高いのは支店長です。であれば、研修はまずは部店長からとしました」(各務部長)。

 東春信用金庫はこの課題解決支援人材育成プログラムに取り組むにあたり、中小機構にサポートを求めた。「支店長を対象とのことでしたが、事業承継やM&Aのスキル習得は難易度が高い。そこで、通常の座学一辺倒の研修ではなく、実践を伴ったインターバル研修を提案しました」と、中小機構中部本部の真鍋泰博アドバイザーは振り返る。2025年5月、インターバル研修がスタートした。

各務茂幸部長

各務 茂幸 部長
東春信用金庫 執行役員 業務サポート部

中小機構の支援
事業承継に直面する事業者に同行訪問
座学では得られない実践型研修の狙い

 人材育成のための研修といえば、まずは若手からが一般的だが、あえて多忙な支店長を対象としたのはなぜか。「そもそも事業承継に真摯に取り組める職員が各支店にいないのは問題です。それならば支店長に勉強してもらって、各店職員のOJTに役立てようという狙いです」と、営業サポート部の大坪勝智次長は話す。

 インターバル研修は全3回。1回目は座学で、事業承継の基本と事業承継計画策定までのプロセスを学ぶ。その後、研修に参加した支店長が自店の取引先の中からすでに事業承継問題を抱える企業を選び、中小機構のアドバイザーとともに訪問。そこからは支店長が主導しながら事業承継計画書を作成する。2回目の研修では、その時点まで計画書作成や活動などについて経過を報告。ここでは他の支店長と情報共有や意見交換する場ともなる。最終の3回目は、それまでに作成し終えた計画書を持ち寄り、発表するという流れだ。

 2025年度は2期に分け、上期は7人、下期は8人の支店長が研修に臨んだ。実際の研修について当金庫高蔵寺支店の伊藤里志支店長はこう語る。「初めに座学で承継の基本や支援のポイントを学んだ後、アドバイザーとともに事業者を訪問します。訪問して話を聞くと、つい“こうしたほうがいいですよ”と言ってしまいがちですが、アドバイザーは相手から答えとか考え方を引き出そうとするんですね。それがすごく勉強になりました」。

 「今回は計画書の作成を成果物とはしましたが、それが最終目的ではありません。計画書を策定するには事業者を俯瞰することが重要ですし、経営者・後継者双方とちゃんと議論する必要があります。これは座学では体得しがたいもの。みなさん、いろいろ気付きは多かったのではないでしょうか」と、真鍋アドバイザーは実践型研修の狙いと効果について説明する。

大坪 勝智 次長

大坪 勝智 次長
東春信用金庫 営業サポート部

成果と課題
支店長自らが事業承継計画書を策定支援
地域密着金融機関としての強みに

 今回の研修に参加した支店長の多くは、これまで事業承継計画書策定の経験がなかったそうだ。支店長と本部の連携役を担った業務サポート部の長江伸哉調査役は「経験がない中での計画書策定は、確かにハードルは高いです。実際“ここまでやらせるのか”という声もありました」と打ち明ける。「それでもほぼ全員が計画書を完成させ、事業者からも感謝の声をもらったことは、研修の成果は大きいと思います」(長江調査役)。

 伊藤支店長は「私自身のスキルアップだけでなく、支店長が研修を受け、自ら事業者を訪問して計画書を作成する、そうした様子を目の当たりにすることで、事業承継が喫緊の問題であり重要な経営課題であることが職員にも伝わったと思います」と研修の成果を振り返る。大坪次長も「私たちが目指すのは中小企業へのきめ細やかなアプローチです。それを表に出せた取り組みになったと思います。メガバンクや地方銀行とは違う強みになっていくでしょう」と評価する。

 一方、中小機構との連携も大きなポイントだったようだ。業務サポート部の伊藤巌調査役は「研修といえば座学を受けて“さあ、やりましょう”というプロセスをイメージしがちですが、今回は事業者に同行訪問して事業承継計画書まで作ったことが大きな効果につながると考えます。これも中小機構のサポートがあったからこそですが」という。「金融機関の役割が融資だけではなく、課題解決の支援もという時代になってきました。今回の研修を通して、わずかながらもそこに近付けたのではないかと感じています」(伊藤支店長)。

伊藤 里志 支店長

伊藤 里志 支店長
東春信用金庫 高蔵寺支店兼坂下支店

アドバイザーの視点

 今回のインターバル研修では、支店長が自らアドバイザーと同行訪問したり事業承継計画書の作成を手がけたところに目が行きがちだが、真鍋アドバイザーは座学も重要という。「そもそも今回の研修は、意識の変容からさらには行動の変容につなげるのが狙いでした。そのためには必要最低限の知識がないことには意識すら変容しませんので最初に講習を組み入れています」。真鍋アドバイザーは、今回は最初の取り組みであり支店長が対象ということもあって、うまくいった部分もあったと見る。「次は次席向けの研修を予定していますが、そこでは計画策定支援を通じ、なかなか話してもらえない苦労や苦悩を経営者から引き出すような対話方法などにフォーカスしたいと考えています」(真鍋アドバイザー)。

真鍋 泰博 中小企業アドバイザー

真鍋 泰博 中小企業アドバイザー
中小機構 中部本部

事例紹介
金融機関の声掛けをきっかけに承継へ踏み出す

 「いつかはバトンタッチしないと、とわかってはいたのですが、なかなか踏ん切りがつかなくて。そんな時、東春信用金庫からの声かけがきっかけになりました」と話すのは、名古屋市内で切削工具や油圧機器などの販売および部品や治具の加工などを手がける有限会社コバヤシ精工の前代表・勉さん。伊藤支店長とともに事業承継計画を策定、2025年11月に経営を長男の大揮さんに引き継いだ。「伊藤支店長からマニュアルとかガイダンスを提示され、それらをひとつずつクリアしていくことで、気持ちも整理された感じでした」(勉さん)。大揮さんも「私自身、分からない部分も多かったのですが、引き継ぐ側、引き継がれる側の対応を紙で示してもらい、大変役立ちました」と、東春信用金庫の事業承継支援を評価する。

小林 勉さん

小林 勉 さん
有限会社コバヤシ精工 取締役(前代表)

小林 大揮さん

小林 大揮 さん
有限会社コバヤシ精工 代表取締役

東春信用金庫

東春信用金庫
創業:1952(昭和27)年
所在地:愛知県小牧市中央1 丁目231 番地1 号
店舗数:19店舗
役職員数:209名
預金:3070億円
https://www.shinkin.co.jp/toshun/

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